家族みんなが集まる場所をつくりたい
Hさんのからのご要望は、とてもシンプルなものでした。Hさんご夫婦を中心に、お子さんご家族はもちろん、ご兄弟のご家族と、家族みんなが集まる場所としての別荘を軽井沢で計画されました。
敷地は道路から少し高くなっており、1.5m程度の浅間石の石積が軽井沢らしい雰囲気を醸し出してくれています。道路からの高低差は人の視線を遮るのにちょうどよい高さで、落ち着いた空気感をあたえてくれます。
ガレージ前の舗装部分はお孫さんたちがバトミントンやバスケットボールを愉しめる場所にもなっています。
道路からガレージ、庭の高さ関係も絶妙で、これを活かした計画としています。居住スペースを地面から浮かせることで、半地下となる部分にガレージを用意しつつ、フロアレベルを地盤面からスムースに離すような空間的なしかけを生み出しています。これは旧軽井沢エリアでの湿気対策にもとても効果的です。道路と反対側の隣地は借景となるような森が残っており、道路側アプローチから敷地奥の隣地まで視線を切らずに見通せる配置計画によって、敷地の奥行を一層感じさせるものにしています。また、庭づくりは既存の樹木を活かしながら、目線に近い高さの中低木を植栽していき、緑が目に映り込んでくる軽井沢らしい自然な雰囲気をつくっています。
空間構成はシンプル。間口を大きく、奥行を浅く、全室南向きとした計画で、玄関を中心に、LDKやバスルーム、主寝室といった中心となる空間とゲストルームを分け、自分たちだけで過ごすときはコンパクトに利用できるプランニングとしています。
インナーテラスは敷地奥の借景を取り込めるように一番奥にレイアウトしています。Hさんがお持ちになったブランコは意外にも大人も楽しんでいます。
もうひとつのテラス、バスコートもHさんの家の特徴のひとつ。ガラス戸を開放すれば半露天風呂となります。ここには外風呂もあり、露天風呂を楽しむだけでなく、お孫さんのためのプールとして使ってもよし、世代を超えて楽しめる空間を用意しています。
LDKは大きなワンルームで、インナーテラスともつながって、みんなでワイワイ過ごせる空間としています。大きなガラス面は庭を眺めるだけなく、お孫さんたちが外で遊ぶ様子もうかがうことができて安心です。
暖炉(ビルトインストーブ)を囲んで話すもよし、ダイニングテーブルやキッチン前のカウンターなど思い思いの場所で過ごしていただいているようです。
別荘・リゾート施設 : 003
島取県西伯郡
設計 | 河口佳介+ K2-DESIGN
施工 | ASJ岡山中央スタジオ[株式会社イチエ建匠]
撮影 | Nacása & Partners Inc.
樹木に、身を委ねる。
鳥取県大山の麓に建つゲストハウスの計画である。近年造成開発された別荘地であるが、道の整備と、簡単な区画割りがされたことを除いて、敷地内には自然のままの森が残されている。間口20m奥行き70mの敷地には、松やミズキ、ヤマザクラなど種類様々な樹木が密生し、最奥からは大山を望むこともできる。
夏には下草や低木がうっそうと茂り、秋には落葉樹の落ち葉で埋め尽くされ、冬になると積雪1.5mを超えることもあると言う。こういった厳しい環境化で長期不在となるゲストハウスとなれば、接地型の建築は湿気、積雪、虫害等から考えて好ましくない。
主要な生活空間は全て2階に設定し、それを各々のRC柱で支え持ち上げる計画が必然的に生まれた。1階部分に通風を確保して湿気が溜まることを防ぎ、持ち上げることで冬場の積雪からも建物を守ることができる。
この敷地に訪れた際、樹木を伐採し敷地に空間を作ることで建てられる建築は、これだけの自然が残る敷地に対しては余りに不釣合いであると感じた。これらの樹木を現存のまま残すことを目標として計画を進めることとした。
実際に敷地内を歩くと、樹木がなく開かれた空間や樹木が密生している場所等、樹木の密度にむらがあり、松で囲まれた場所は縦への空間の広がりもある。
一度樹木の位置を測量によって割り出し、高さ・枝張等を確認し図面にプロットして、樹木のムラの中に空間を見つけ出して配置計画を行った。樹木で囲まれた空間の広さ・高さにより各空間の用途を決定し、それらを1本の渡り廊下で貫くようにして繋いでいる。通常の部屋の配置、形態から決定していく建築とは異なり、配置平面や断面の決定権を樹木側に委ね、元々の宿主である樹木の隙間を拝借し、森に間借りするような形態である。各棟により囲まれた部分は専用の庭のような空間となる。秋の落葉・冬の積雪に考慮し各棟に勾配屋根を採用し、それらを各庭、もしくは樹木の枝ぶりに対して勾配方向を決定することで、方向性が複数存在するランダムな建物形態となった。樹木に対して身を委ねながらも、樹木と建築双方が引き立て合うことでより力強い建築へと昇華したと考えている。(河口佳介)
別荘・リゾート施設 : 004
静岡県
設計 | 榎本 弘之
撮影 | 仲佐猛
絶景へと向かう、究極の拡がり。
熱海は新幹線で品川から最短31分、その駅からたった10分で大海原に開けた別天地:海光町に出ます。しっとりした石畳の小径と小京都のような静かな佇まいの一角は、明治時代に政治家や大実業家が別荘を連ねた由緒ある地。ここに最高のリゾートを求めて保養所を計画しました。
道路側には敷地一杯に壁を建てて、海への眺めを一旦シャットします。重い扉を開けるとガラスの階段、それを一歩一歩上がるごとに視界は開け、ラウンジからデッキへ、プールへ、そして太平洋への圧倒的な眺望のなかに投げ出されます。ラウンジとデッキは純白のタイルで揃え、遙かなる拡がりを強調します。両者を仕切る幅7mのガラスは電動で静かに上昇し、内外は完全に一体化します。その先は10mを超える崖下。とはいえ手摺を付けては眺望は台無しです。そこでデッキ先端はインフィニティ・プールとしました。視覚は遮らずに崖へは落ちない仕掛けです。ラウンジ・デッキ・プールが全体の中心となり、最高の開放感を求めた核となります。しかしそれだけでは落ち着きません。核の両側には緩やかに囲われた安らぎのためのダイニングと暖炉コーナーを配し、中心との対比の中で、豊かな生活を目指しました。
ラウンジの純白タイルはそのままの幅でデッキへと延び、その先には手摺をなくすためのインフィニティ・プールが光る海へとつながります。ラウンジとデッキを仕切る窓は幅7m。邪魔なサッシュ方立は中間には設けず、ガラス厚の半分の径のステンレス丸鋼を突付ガラスのコーキングの中に埋め、殆ど一枚ガラスかのように見せています。丸いジャクージとプールで先端を縁取られたデッキは、大きく海に拡がって、この上ない開放感を得られます。床の丸穴は、階下に光を落とすトップライトです。
床の600角タイルの角にはLEDを埋込み、それが電動窓に反射して光の格子が海へと拡がります。また、伸びやかさを追求したラウンジとは逆に、暖炉を囲む暖炉コーナーが、安らかな寛ぎの時間を生み出します。
ラウンジ+デッキが中心になって、その左右にダイニングと暖炉コーナーを配しているのがわかると思います。
プールは敷地形状に沿って斜めに伸ばし、先端には丸穴を空けました。潜って泳いだらきっと楽しいだろうとわくわくしながら考えたデザインです。
別荘・リゾート施設 : 005
長野県安曇市
設計 | 粕谷淳司+粕谷奈緒子/カスヤアーキテクツオフィス
施工 | ASJ 松本中央スタジオ [松本土建株式会社]
撮影 | 吉村昌也,粕谷淳司(2・3枚目)
豊かな自然環境を、快適に享受できる「空間」
都市の喧噪を離れた森の中で、樹木に寄り添うように計画されたセカンドハウスです。その枝分かれした独特の平面は、既存樹木を伐採せずに建設すること、そして室内からさまざまな方向の森への眺望を楽しむことを目的に導かれました。
垂直の壁がほとんどない、テントのような特異な断面も、限られたコストで最大の空間を生み出すというシンプルな目標のために導かれたものですが、同時に、インターネット環境が整えられた現代において、別荘に真に必要とされているものは(例えば書物などの)「物品」ではなく、豊かな自然環境を快適に享受できる広々とした「空間」そのものだ、という考えにも基づいています。
こうしてできあがった「小屋と洞窟の間」のような初源的な空間は、郊外住宅の簡素な縮小形でしかなかった、これまでの別荘建築に対する挑戦でもあります。
仕上げ材料には、現代の別荘建築に求められる性能を体現できるものを選定しています。例えば外部はメンテナンスが極力不要となるように、傾斜面から垂直面までをガルバウム鋼板で一体に包みました。雨樋はなく、雨水や雪は周囲の地表に直接浸透させています。
シームレスで一体的な室内は、暖かみと静けさを同時に感じられる素材として、色土をわずかに混ぜた漆喰で仕上げました。傾斜が異なる壁の角度を調整する室内頂部の曲面仕上げにも、伝統的な漆喰は最も優れた材料でした。
幅広のオーク材で仕上げた床に埋め込まれた、LED の照明器具や床暖房は、インターネ ット経由の遠隔操作が可能で、真冬に到着したオーナーを、明るく暖かな室内が迎えます。このように「安曇野の山荘」では、伝統的な素材と最先端の設備が、等しく用いられています。これらはいずれも周囲の自然環境と共存する建築のかたち、そして現代の別荘に求められるサステイナブルな性能から論理的に導かれ、採用されたものなのです。
(粕谷淳司+粕谷奈緒子)
別荘・リゾート施設 : 006
設計 | 福田哲也/アーキタンツ福岡一級建築士事務所
撮影 | 石井紀久
桜坂の家
福岡市の中心に程ちかい閑静な風致地区(フクロウの森と呼ばれる地域)にこの住宅は計画されました。緑に囲まれた敷地内には高低差が10m程あります。その高低差を利用して、敷地の一番高い場所に、離れと露天風呂を配置して近隣の森全体を眺める眺望を確保し、斜面中腹には屋内プールを埋込んで側面を水槽のようにアクリルで仕上げ、使用していない時も山肌に水を感じられるようにし、下方に駐車場を埋込み、屋根は庭から上がれるようになっています。その斜面に対峙する形で敷地の低い位置に母屋を配置し、その母屋から眺める斜面は点在する建築と植栽により、「立体庭園」としてこの住宅の見せ場となっています。
母屋は、プライバシーを守りながら、周辺環境へ開く建築になるよう、ランダムな開口を持つ特徴的なデザインを採用しています。昼は数種類の石のテクスチャーを楽しみ、夜は室内の照明によって幾何学的なシルエットが浮かび上がり、地域の行灯としての役割も果たしています。水盤に囲まれた1階は、どこからも水を感じられるように計画され、アジアンリゾートのような親水性を意識したつくりにしています。
昨今の亜熱帯化していく日本の環境の中で、周辺環境(地形/樹木/石/水/風)と積極的に親しんでいく建築を目指して計画された住宅です。